JUDGE REVIEW 審査講評
鉄道写真家
山下 大祐
Daisuke Yamashita
ソニー初の鉄道フォトコンは、おかげさまで大変多くの鉄道写真作品が集まりました。テーマも応募条件もほとんど問わない当コンテストは、ありとあらゆる趣向の作品が寄せられたわけで、わずか3点の入賞作品を決めるのは想像以上に難儀なことでした。審査は1回2回とふるいにかけていくのですが、上位数点ほどとなってからがもっとも思案に時間がかかったように思います。最後の選考は、「小さなブレをなぜ起こす必要があったのか」というようなわずかな疑問が解けないままの作品たちに退いてもらいました。
やはり時流でしょうか。全体を通してデジタル的なエフェクトを盛り込んだ作品が多かったようです。それがどうかというものではありません。1枚の画像ファイルからわかることには限りがありますし、どこからどこまでが写真作品として認めていくかというところは、コンテストの場合審査する側の裁量でもあります。もちろん1画面に2つの列車を合成によって合わせたと認められる作品などは見送りました。しかし審査の中で私が大切にしたのは“作者の思う鉄道の魅力が表現されているかどうか”です。私個人が感じる写真元来との不均衡については幾分かの許容範囲をもって鑑賞させていただきました。
何れ劣らぬ力作をすべてお見せできないのが残念です。しかし今回入賞された3作品も、必ずや表現者の皆さまにとってのヒントとなることと思います。そうやって今後の写真表現がより高まっていくことを願いつつ、私も皆さまの作品を大いに参考にさせていただきます。
茨城県にある北浦橋梁の夕刻の写真です。“絵になる”撮影地でそれゆえ同様のねらいを持った作品が数多く発表されている場所でもあります。しかしどうでしょう。この見事な雲。この日のカメラポジションのためだけにお膳立てされたかのようです。夕日に照らされ雲自体にも陰影がつき、水鏡によって画面全体で美しい色彩がのせられています。貨車のシルエットもいいアクセントです。ねらってもそう撮ることのできない瞬間に奇をてらうことなく堅実にまとめられ、理屈や技術を語る以前に美しさがダントツで秀でています。作者のこの場所にかける思いが結実したような、そんな一枚です。